The Best of AACC Japan: Session 2

The Value of Point-of-Care Testing in the Hospital Setting: Cardiac Example

The Best of AACCのセッション2として、11月16日にThe Value of Point-of-Care Testing in the Hospital Setting: Cardiac Exampleが行われた。

main speakerであるEhrmeyer名誉教授はアメリカ臨床化学会(American Association for Clinical Chemistry, AACC)から卓越した講演者に贈られる「Outstanding Speakers Award」を 1989年から2010年まで連続受賞され、2013年に23回目の受賞された実績からもBest of AACCの演者に相応しいご講演でした。

Ehrmeyer名誉教授はAACCの専門委員会の一つであるCritical and Point of Care Testing, CPOCT DivisionのSecretaryを2003年から2006年までお務めの実績に加え、国際的にも評価を受け2008年にはItalian Clinical Laboratory Association よりPOCTへの卓越した貢献が認められ、Professional Achievement Awardを授賞されました。このような豊富なご経験と知識を元に、POCTの価値ある利用について循環器疾患での例を中心にご講演されました。以下にご発表の概要を紹介致します。

救急部門でのPOCT利用

2106年の全米保健医療統計センター発表では死因の第一位は心疾患で、アメリカで救急部門を訪れる患者の中では、胸痛を主訴として訪れる45歳以上の患者が多い。

例えば胸痛を主治医に電話で告げると、多くの場合で主治医は患者に救急部門を受診するように伝えます。(坂本説明:アメリカでは日本の医療制度とは異なり、多くの場合はPrimary Care Physician, PCPと呼ばれる主治医を介して受診を行うが、本当の緊急時はその限りではない。)

まず最初の例として、医師や病院を怖がっていた60歳男性が激しい胃痛、発汗、呼吸困難、胸痛で救急部門を訪れた時の症例を示しました。そのような状況で受診する患者に対し、心筋梗塞かどうか確認のために臨床検査は必須です。

特に急性冠症候群は心臓への血流不足に関連する兆候や症状を有し、救急部から退院したこれらの患者の死亡率は10%から25%なので、正しい診断が重要です。そのために医師は急性冠症候群の兆候がないことを確実にしたいので、医師が依頼する検査の主な目的は生命に関わる原因を認識することです。

心疾患では一刻も早い治療が有効であり、救急部門では時間を重んじ「時間は心筋」と考え、救急部門のプロトコルでは患者が救急部に到着してから診断に至るまでの流れを最適化するように設計されています。だから救急部で使用される胸痛を訴える患者へのプロトコルは、生命を脅かす状態を即座に認識したり除外したり、リスクの階層化により治療を行います。そして、医師は患者の症状を確実に診断できるよう、これらの胸痛を訴える患者には心電図検査及びトロポニンの検査を依頼し、患者のリスクを階層化します。

Ehrmeyer名誉教授は時間に集中してほしいと伝え、中央検査室で使用する方法とは多少異なっても、検査依頼から結果の返却までを示すTurnaround time, TATを短縮する手段としてPOCTの重要性を示しました。中央検査室ではTATに対し、中央検査室で検体を受け取ってからの時間と考える場合がありますが、そうではなく医師や患者の視点からTATを定義すべきだと述べました。

臨床検査の重要性

心疾患の診断のためトロポニンIまたはTを検査し、検査結果から治療方針を決めます。ついで不安定狭心症や非ST上昇型急性心筋梗塞の確認のため心電図検査で行います。急性冠症候群では不安定狭心症が多く、心筋虚血と心臓やおそらく心筋梗塞への血流の急激な減少につながっています。

非ST上昇型急性心筋梗塞は通常、動脈が狭窄しても完全に閉塞しません。このような場合、トロポニンは99%以上で陽性であり、心筋の損傷で放出されたトロポニンタンパク質は、診断で非常に有用な臨床検査で唯一のマーカーとなります。CK-MBやミオグロビンの測定はあまり行われず、すでに推奨されていないと考えられています。 2017年10月のAACCからの公表によれば、患者のフォローアップに必要な検査はトロポニンのみで、他の検査ではないとの論文がでました。

もしトロポニンが実際に上昇しないものの、急性冠症候群の疑いがある場合、トロポニンの連続測定を行うことがあります。救急部門へ到着してから3時間以内にトロポニンを測定すれば、多くの心筋梗塞を診断できることが研究で示されています。ここで注意しないといけないのは、トロポニンの連続測定を行う際は常に同じ条件で検査を行うことです。もし最初にトロポニンTを測定し次はトロポニンIで測定を行う、最初の測定はPOCTで行ったのに2回目は中央検査室で測定するなど、異なる条件で測定すると結果の解釈で混乱する可能性があるためです。これらの異なる条件で測定した場合、互換性がないことを理解しておく必要があります。

TAT短縮の重要性

救急部門に患者が到着したら10分以内に心電図検査を終え判読しておく必要があり、1時間以内にトロポニンの検査結果も必要です。もし再灌流の必要があるなら1時間半以内の実施が必要です。POCTでトロポニンを測定するなら、1時間以内で検体採取から検査結果を得ることが可能ですが、中央検査室での測定では検体搬送の時間を考慮する必要があり、患者が到着してから1時間以内でトロポニンの検査結果を得ることは難しいでしょう。

検査項目について

臨床医達は患者の状態を把握するため、腎臓機能の確認としてクレアチニンの検査を依頼し、貧血や感染の状態の指標にCBCの検査依頼も行うでしょう。消化管出血が貧血の原因か確認のため、ヘモグロビン濃度から検査するかもしれません。呼吸が短い場合や肺に異常がある場合は血液ガスや乳酸の検査で酸素化を確認するでしょう。もしかしたら脂質や総蛋白など肝機能マーカーを確認するかもしれません、そして最終的にBNPを急性冠症候群の兆候として検査するかもしれません。

患者の状態によっては心電図やトロポニンの結果から、どの冠状動脈がブロックされていたり、狭くなっているかを決定するため血管造影撮影を行うかもしれません。血管造影撮影を行う前には腎機能の把握が必要で、クレアチニンの検査依頼を行います。これらは救急部門で全て行うため、POCTでクレアチニン測定を行うことはとても一般的になっています。

分単位の時間を大切に

血管造影撮影は血管形成術、経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)、ステント、冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)、または単に薬物療法で行うかの決定に役立ちます。心筋左半分へ血液を送っている冠動脈の左前下行枝(Left anterior descending coronary artery:LAD)が詰まりを起こした場合、発見が難しく致命的心臓発作を起こすため、ウィドウ・メーカー(未亡人製造機)と呼ばれます。

血管再生のためステントやCABGを行うが、その際には出血や凝固の状態の観察が必要で、血栓形成を防ぐため抗凝固薬であるヘパリンを術前に用い、手術中はプロタミン(ヘパリン拮抗薬)を使用してヘパリンの効果を調整します。また、血小板が一緒に凝集するのを防ぐため、アスピリンとインヒビターとの組み合わせである抗血小板剤二剤併用療法(Dual antiplatelet therapy:DAPT)を使用することもあります。

これらを観察するため、血栓弾性描写法であるトロンボエラストグラフィ(TEG)が効果的で、血餅形成とフィブリン溶解を評価可能で、出血原因を探ることもできます。また、活性化凝固時間(activated clotting time:ACT)で投与された高用量ヘパリンによる抗血液凝固作用の観察を行い、アスピリンの観察および血小板阻害の評価も行います。これらに加えて、血液ガス、ヘモグロビンおよび乳酸を検査し、新たな変化や塞栓または別の心筋梗塞を探すためにトロポニンで再び経過をみます。

このように多数のこと行うので、重要な点は時間で、それも分単位であって時間単位ではありません。

POCTへの考え方

いかなる場面でも新たなことを始めるには、その有効性を確認する必要があります。ただ残念なことに、POCTに関してはこの約20年間に渡って特定の治療法の価値を実際に示す多くの研究はありませんでした。誰かにPOCTについて尋ねると、残念なことに「POCTにはより多くの研究が必要だ」と返答されることが多いのが現状です。

そこで私は、凝固と出血の管理を改善する止血検査を紹介し、血小板機能検査は阻害剤の確認に役立つこと、総ヘモグロビン量の測定は輸血回数や滞在期間を減らすのに有効で、これらが結果的に心臓血管手術に伴う費用対効果を上げることを紹介したいのです。

救急部門では迅速なTATが、患者と臨床部門の管理や治療方針決定の迅速化につながると思います。この点を証明するためデータを集め、これらの事を執筆し公表せねばなりません。またTATの短縮は、救急部門の過密さ患者待ち時間短縮につながります。そして、トロポニン検査および/または入院から3時間にわたるトロポニンの連続的観察は、早期の心筋梗塞診断に有効であり、POCTが重要になります。

私たちが考えなければならない重要事項は、必ずしも技術だけではなく時間です。現在のPOCTでは検査に必要な血液量がとても少ないので、採血量も少量でよいとの利点があります。したがってPOCTを利用する際で最も有利な点はTATの短縮になります。TAT短縮は早い診断と治療開始で患者へメリットに結びつき、特に循環器系では重要事項でもあります。患者にとっては早い回復、病院にとっては滞在期間の短縮による施設の有効利用、結果的に費用効果と患者の満足度も上がるなど、多くの利点があります。

POCTを用いた有効事例

2011年に報告されたアメリカでの結果ですが、POCTを用いている救急部門を訪れた1億3600万回の調査結果で、42%が何らかの血液検査を受けています。受診者の25%が何らかの処置を行う前に腎臓機能確認でクレアチニンまたはBUNの検査、15%がトロポニン検査を含む心機能マーカーの検査、3%が血液ガス検査を受けています。

検査依頼から結果提出までの時間であるTATを短縮するには、これまで述べて来たようにPOCTです。

POCTへの考え方の変化

私は長い間POCTに関わってきましたが、POCTが開始されたとき、特にアメリカでは誰も今のレベルまでになると思っていませんでした。

富士山と湖面に映った逆さ富士の写真を投写しながら、実際の富士山と共に私たちは湖面に映った富士山を見ることができます。この写真と同様にPOCTを異なった視点から見てみましょう。POCTが最初に出たとき、臨床検査室ではPOCTがここまで拡大し、中央検査室がPOCTに関わることは予測できなかったと私は思います。

POCTのCは現時点でケア(Care)のCですが、将来はCがカスタマー(Customer)やコンシューマー(Consumer)として顧客を意味するかも知れません。

2017年の晩夏、私はフランスで自転車旅行に行く機会を得ました。旅行はアーカンソー病院の循環器部門長と一緒であり、私の関心事がPOCTであると話すと、彼の目が変わりました。そして、彼がPOCT自体を話題にしていないことにすぐ気が付きました。彼はPOCTのCの意味はケアから顧客になっていくだろうと話していました。彼はEric Topol 博士が執筆した本「The Patient Will See You Now」を読むように勧めました。Topol 博士は循環器医であり、カリフォルニア州ラホヤのスクリプス研究所の部長でもあり、最も革新的な思想家の医師のひとりであると多くの人々が考えており、彼の著書では技術開発と遺伝子について、特に健康管理情報形態を革新し続けるだろうと述べています。

そして、Topol 博士はスマートフォンや50回は洗濯が可能なTシャツ型の心電図計の開発を例に、オンデマンドで心電図検査を受けその情報がスマートフォン経由で医師に中継される可能性を示しています。さらに米国では薬局で購入することができるOTC(over the counter)検査薬の近未来について述べています。

さらに唾液を集めてある会社に送付すると、遺伝的な情報から健康に関する情報が提供されます。ここでのポイントは、患者が自分自身の健康情報を有している点であり、医者はこれをどう扱うかを決める必要があり、臨床検査室はこの情報をどう扱うかを決める必要があります。

今日は参加してきただき、ありがとうごいざいました。

このあと、Dr. Stephen R. Master博士は追加の講義としてではなく、Ehrmeyer名誉教授の講演で提起された非常に重要なテーマであると思う3つのことを補足されました。

迅速な検査が治療方針決定と患者へよりよい効果を与える

Master博士が勤務する病院では血糖測定で約150台のPOCT機器を使用し、血液ガスや電解質などの測定が可能なPOCT機器を230台有しています。特に救命部門では、胸痛を伴う患者にPOCTでトロポニン検査を実施し、平均して1日あたり10〜15回ほど行います。したがって、マスター博士が勤務する病院では、Ehrmeyer名誉教授が述べたようにPOCTが診断業務の重要な要素として組み込まれています。

POCTについて考える際、Ehrmeyer名誉教授が具体的に講演されたように、POCTの定義やPOCTの重要性について考える必要があります。Ehrmeyer名誉教授の講演では、臨床検査のプラットフォームそのものでなく検査を実施する場所とタイミング、患者との距離が重要であることをとても明確に示されました。

多くのPOCTが備える特徴的な点である小型化と携帯性を利点として考え、患者にとって重要な点は極めて迅速に結果を出すことができる点です。それは病院にも同様なメリットがあります。

様々な方法で院内において同様なメリットをもたらすことを考える価値があります。例えばPOCTでトロポニン検査の実施は実際に重要な要素であるかもしれないが、POCTの代わりに小規模なサテライト臨床検査室を緊急部門の近くに設置する方法もあります。ただし、サテライト臨床検査室を設けるためには、設置スペースや機器購入や工事だけでなく人材確保、さらに予算のことなど多くの事が必要です。したがってサテライト臨床検査室設置とPOCT利用、それぞれのメリットとデメリットを考慮する必要があります。

POCTと中央検査室

POCTと中央検査室で行う検査の特性の違いを理解することが大事です。例えばトロポニン値を経時的に観察する場合なら、検査法の一貫性が重要で中央検査室での測定が最良の方法です。

Clinical Chemistry誌で、Fred Appleらが行った約1600人の患者のコホートを観察した結果、従来法のトロポニンIと高感度トロポニンIを比較した際、心電図検査のような他の検査と組み合わせれば、トロポニンIの連続測定の数を減らすことが出来ると報告されました。安全に患者さんを帰宅させることができれば、高感度トロポニンのような検査はますます重要になってきていると思います。

しかし現時点では、POCTでの高感度トロポニン検査はまだありません。したがって、これらの並行する検査方法を確立するとともに、感受性が高い新しいトロポニンの検査法について考えることはさらに重要になります。

POCTの変化

Ehrmeyer名誉教授の講演で、POCTのCがCustomerやConsumerなどの顧客へ移るかも知れないことを触れました。これは非常に重要なトレンドだと思います。歴史的に見ても、妊娠検査薬などが医療に大きく貢献していることは明らかです。

私達が全ての臨床検査を保ち続けることはできず、その検査を一般にも市販できるようになれば、慢性疾患のある患者へ検査方法や検査の意味を教育した場合、実際にはより効果があるかもしれません。専門機関で行うより、自分自身の検査結果を管理することができる検査は今後も増え続ける可能性はあります。

臨床化学の歴史と臨床検査の歴史を考えるとき、Eric Topol 博士の発想が臨床検査領域に影響を与えるかどうかを思慮する価値はあります。 50年前、70年前に臨床化学で起こったことを考えると、臨床化学は一連の手順に沿って反応を進める数々の試薬とそれを扱う技術者で行っていましたが、現在は自動化機器に取って代わっています。

今後も臨床検査に関わる者が提供できるものがあり、これは今後非常に重要です。まず検査値を解釈する専門家で、私達は検査値を理解しており、実際にその専門知識を確立することが重要な点です。医療施設外で行うPOCTの種類が更に増えれば、一般の人々は私たちに検査について尋ねるようになるでしょう。

私がさらに伝えたいのは、検査値を統合し中央検査室とPOCTの大規模な検査結果を統合した状態で提供することが重要であり、それを理解することです。また、臨床検査領域に関わる私達は定量分析だけでなく、情報科学にも関心を持つ必要があります。

最後に私達は自分達だけでなく、若い世代にも焦点を当てる必要があります。なぜなら、次世代の人々や次世代の臨床検査薬が進化するにつれ、それらが引き続き関連性があるように理解する必要があります。

質疑応答で会場の方との会話を楽しみにしています、ありがとうございました。

会場からの質問1

講演で“Point of Care Testing”が将来“Point of Customer Testing”または“Point of Consumer Testing”になるとありました。現在院内で使用されているPOCT対応機器がトレーニングを受けていない一般の人に広がり使用されることになると機器の品質管理(QC:quality control)が心配になります。その時が来るまで今の内から準備できることへのコメントを頂きたい。

Ehrmeyer名誉教授:

そうなれば、メーカーは誰でも間違えずに使えるデザインにしなければならないでしょう。また、これは院内で適切なトレーニングを受けたスタッフでも起こりうる問題なので興味深い質問です。

Master博士:

POCTがすでにいろいろな臨床現場で使用され役立っています。広義でのQCはその機器がどんな技術が応用されているかにも依存します。臨床検査医学の立場からすると、現在は患者と直接の接点が限られているが、point of consumer/point of customer testingの時代が来ると、例えば生体間のばらつきのデータなどがもっとクリアに見えるかもしれない。例えば長期間にデータのドリフトがもっと見つけやすくなるなどのQCの仕方も新しい方向に進むかもしれなません。

Ehrmeyer名誉教授:

例えば、検体量が多すぎた際などは測定結果を出さずにエラーメッセージを示すなどのメーカーは“チェックとバランス”ができる機器をデザインして欲しい。
機器の使用者がトレーニングを受けた医療従事者でないという想定で機器をデザインし、機能に組み込まなければならない。これは企業にとっては大変な事です。

Master博士:

来るべきPoint of consumer/point of customer testingの時代にはまだ準備態勢が整っていないが、もうすぐそこに迫っている。データ会社のグーグルが製薬会社のノバルティスと組みコンタクトレンズで血糖測定する機器を開発しているのも偶然ではなく、アップルも臨床検査データを扱うインフラを整備しようとしている。
臨床検査医学もこれらの時代の到来に向け事前準備を始めなければならない。単に最新の技術のみでこの方向に進むのではなく医学が適切にガイドしなければならないでしょう。

Park博士:

血糖測定器が電子カルテとつながっていることも例に挙げることができる。これからはデータの”conectivity”も大切になるでしょう。

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