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- Japan: Session 1
2017年11月15,16日に京都国際会議場で開催された第29回世界病理臨床検査医学会連合会議WASPaLMのプログラムの一つとして、The Best of AACC Japanを一般社団法人日本臨床検査機器・試薬・システム振興協会JACLaSが米国臨床化学会AACC、日本臨床化学会JSCCと共催した。The Best of AACCは、AACCの最新の科学的そして教育的活動を全世界の臨床検査関係者に広報する公式プログラムとして実施されている。わが国での開催ははじめてであったが、11月15日にはFDA/CLIA Requirements for Validation of Laboratory Developed Tests in the USAのテーマでセッション1が行われた。
本稿では、main speakerであるStephen R. Master准教授の講演とセッション最後に行われた質疑応答の内容を中心に紹介する。まず、セッション1の司会者である筆者が歓迎の挨拶を行い、続いて共同司会者のバージニア・コモンウェルス大学のDavid S. Wilkinson教授がプログラムの趣旨を説明した。The Best of AACCはAACCの教育プログラムであり、セッション1の目的は、米国での臨床検査サービスの規制の歴史を概観し、他の国でも起こり得る状況への注意を喚起することであるが、具体的にはthe Clinical Laboratory Improvement Act (CLIA) 制定の歴史的背景、In-vitro Diagnostics (IVD) 規制におけるFood and Drug Administration (FDA) の役割、 そしてCLIA規制とFDAによる規制の相互関連性が中心になることが紹介された。続いて、main speakerであるMaster先生が紹介され、以下の内容の講演を行った。
今回、米国におけるLaboratory developed tests (ラボ開発検査、LDT)の妥当性確認におけるCLIA/FDAの要求事項について講演するように依頼されたが、このことは少し 複雑である。理由は、LDTはCLIAとFDAという2つの異なる規制を同時に受けているからである。まず、臨床検査室自体を規制するCLIAと検査の開発を規制するFDAについて話す。次に、LDTは長い間システムとして機能してきたが、最近のLDTは高リスクになっていることを危惧したFDAが規制強化を提案したので、それについて紹介する。最後に、 LDTの保険償還についても紹介する。1967年、the Clinical Laboratory Improvement Act (CLIA ’67)が制定され、検体検査や臨床検査サービスが州を超えて実施される 場合には、検査室の免許取得が必要とされた。CLIA ’67は、検査室自体を規制するはじめての法律であったが、全ての検査室が適用対象でなかった。しかしながら、検査室間でPAP検査の検査精度に大きな違いがあることが問題になり、国レベルでの検査室の質保証に関する問題提起がなされ、1988年に制定された改善法であるCLIA ‘88では全ての検査室の規制が導入された。LDTについての基本的な考え方は、「検査室が自前の技術と試薬を用いて、自前の検査を開発する場合、FDA承認は必要ない」というものでありenforcement discretion自由裁量)、FDAは、広く販売される検査の製造を規制する(FDA承認/認可)という役割分担がされてきた。検査室が自前の検査を製造した場合、検査室にはどのような責任が発生するのか?CLIAは、検査室に分析的妥当性データを求めており、IVDに匹敵する性能評価が要求される。従って、検査室の責任者であるLab Directorの責任は重大であり、もし、検査室で不正行為が行われた場合、Lab Directorには2年間の資格停止処分が下る。LDTなしには臨床検査は成り立たない現状であり、 特に、LDTを用いた分子診断は現在のプレシジョン・メディシンの基礎となっている。さらに、米国では質量分析検査のほとんどがLDTである。
次に、診断薬はどのように規制されているか紹介する。1937年制定のFederal Food, Drug, and Cosmetic Act(連邦食品・医薬品・化粧品法, FFDCA)では、医薬品は市販前に安全性を証明することが求められた。医薬品には診断薬も含まれるが、FDAが試薬、装置、そしてキットを含むIVDの規制を宣言したのは1972年であり、米国で臨床医学診断に用いる検査(LDTを含む)を製造販売する場合、FDA承認または認可が必要であるという立場は一貫しているというのがFDAの主張するところである。実際には、自前の検査を開発し、開発した検査室だけで使用するLDTの場合、FDAは規制対象としてこなかった。しかしながら、遺伝子検査をはじめとする研究用試薬を用いる検査、複雑で多項目化した検査、そしてFDA規制を上手く回避するビジネスモデルといった要因が、FDAをLDT規制強化へと踏み出させた。例えば、多数の遺伝子の発現を調べ、そのデータを基に診断アルゴリズムにより結果を得る検査 (In Vitro Diagnostic Multivariate Index Assay, IVDMIA) は、より複雑で、ほとんどの検査室では自ら実施できるとは思えない。この類の多項目検査は単一の検査室で開発され、妥当性確認がされているのでLDTと考えられるが、より複雑な検査であるのでFDAは審査するとしている。演者の在住しているニューヨーク州では、全てのLDTは承認が求められる。FDAはリスク分類に基づいてLDTへの規制を段階的に導入するドラフト・ガイダンスを提示したが、検査関連団体から多くの意見が出て、いまだガイダンスとして確定・公表されていない。
最後に、LDTの保険償還について紹介する。米国でLDTが保険償還されるには、2段階プロセスを経なければならない。まず、Current Procedural Terminology (CPT、現行 医療行為用語) codeの取得が必要で、CPT codeを取得したらメディケア保険償還を提唱することになる。償還額はClinical Laboratory Fee Schedule (CLFS, 臨床検査料 金計画)に基づいて決定されるが、個人保険の償還額はメディケア保険を基準にして決定されることが多い。米国では、Protecting Access to Medicare Act (PAMA、メディ ケアへのアクセス確保法)によってCLFS償還額を年10~20%削減する計画が進んでいる。まとめると、LDTは医療の進展に大いに貢献してきている。歴史的にLDTはCLIA’88に 則りCenters for Medicare and Medicaid Services (CMS) が監視してきたが、今後はFDAが監視することが増えるであろう。この点については賛否両論があるが、新しい 検査の開発というイノベーションの観点からはFDAによる規制には問題がある。一方では、LDTがFDA承認審査を回避する抜け道となることを危惧する。演者が同じタイトルで1 年後に講演する場合、LDTの規制をめぐる状況は違っていると思う。国によって事情が異なることをよく理解しているが、我々が直面している臨床検査に関する課題について他 の国々の関係者と対話することは大切なことである。
Master先生の講演に続いて、ウィスコンシン大学マディソン校病理・検査医学のSharon Ehrmyer名誉教授が臨床検査としてのLDTの重要性の例を紹介した後、 討議がなされた
Q1(ブラジル): 我々の検査室はCollege of American Pathologists (CAP) 認定検査室であり、 FDAルールに従うべきと理解している。FDAはCAP認定検査室が実施するCE-marked assayをどう考えるか、質問したい。A1-1: CE markはヨーロッパで通用する制度であって、米国では通用しないし、十分ではない。CAPは貴方の検査室がFDA規制に従うことを求めていない。 CAPは、検査室がCLIAの要求事項に合っているかどうかを判断するだけである。貴方の情報では、National Institutes of Health (NIH) がサイトビジットをして、 NIHプロジェクトとして実施するHIV検査のvalidationが正しく行われているかチェックするということであるが、NIHがassay qualityに注意を向けていること は良いニュースである。何故なら、これまでNIH研究費で行うトランスレーショナルリサーチでは、検査の質に関心が払われていなかった。
A1-2: CAP認定はCLIA要求事項を満たしていることを表している。CLIA要求事項では、FDA承認検査と未承認検査を区別しており、 後者のvalidationのための追加要求事項があるので、それに従っていれば、何も心配しなくて良い。
A2: 素晴らしい質問である。FDAは2つを区別していない。多くの検査室が、他に相応しい表現がないのでLDTという用語を使用しているが、 高度な技術や人材を有する検査室に限って議論すれば、LDTに関する議論は違ってくるであろう。
このあと、Wilkinson先生とMaster先生の間で、CPT codeの内容についての意見交換があった。CPT codeにはtechnical componentのみが含まれ、 professional componentは含まれないとするCMSの見解が紹介された。わが国での実施料と判断料に共通するような問題が米国にも存在することが明らかになった。 多くの質疑がなされたが、ブラジルからの参加者が「PAMAを米国外に持ち出さないように」とコメントしたことも付記しておきたい。