山舘 座長を交代させていただきます。人間総合科学大学の山舘と申します。続きましては、 「最新計測技術とデータ解析技術で見える新しい『脳科学』」と題しまして、池田俊幸先生にお話をいただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
池田 今回、「臨床検査におけるIoT」というお題をいただきまして、康先生からは医用機器メーカーの現在、 あるいは将来へのIoTあるいはビッグデータでの取り組みを紹介してほしいというご要望をいただきました。いろいろ考えてみたのですけれども、 近未来的にはたぶん検査データを使った診断支援、診療支援がビッグデータ、AIを使った解析という形になるんだろうと思います。ただ、もう少し長い目で、 人々の健康をどう守るかということを考えたときには、日常空間の中でどのように人々の生活をとらえて、 そこから疾病予防、疾病の未病状態を見るかということが大事になるだろうと思っていまして、 そこの部分のビッグデータの解析がこれから進むだろうと思っています。
その中で、今まで一番わからない脳の機能、あるいは脳の働きについて、IoTを使って、クラウド上に上げるようなデバイスも必要だろうと考えています。 本日は、臨床とは離れるのですが、我々が今やっている試みについてご紹介をさせていただきたいと思います。
<ビッグデータの3つの価値>ビッグデータには、3つの価値があると思っています。
一つ目は、ビッグデータ解析をすることによって、それまで何かわからなかった、 見えなかったものが新たに見えてくるということです。いろいろなデータの中から法則性を見出すことがビッグデータ解析の1つの価値と考えています。
2つ目に、新たに見つけた法則性を用いて新たな価値を付ける。 簡単にいうと、出て来た法則性から生産性を向上させたり、例えば診療の効率を上げる。というような価値を加えることだと考えています。
3つ目が、それをリアルタイムでやることによって、過去・現在、その法則性を見出して、さらに将来に対して予見をできるようにする。 そういうことがビッグデータ解析の価値だろうと考えています。その中で、この解析をするために一番必要なツールが、AI・人工知能だと考えています。
人工知能とは何かというと、従来は多くのデータを見ながら専門家が仮説を立案して、これを検証して、ある種の法則性を見出すという形で利用するという方向でした。 しかし、データ量が増えてくる中、人工知能を使って仮説をどんどん立てて、それを検証させ、それを繰り返すことで法則性を見出していく、 これが現在のAI(人工知能)の使い方だろうと思っています。
日立グループでは、ソーシャル・イノベーションを進めることを企業の中心的なミッションとしています。「マシン」「ロケーション」「マーケット」 「スマートインフラ」「ヒューマン」この五つの分野のビッグデータを使った試みをしています。本日は、この中でもヒューマンを対象とし、 身体情報や行動の履歴、他人とのコミュニケーションなどの活動を解析した内容について、お話をしたいと思います。
(中略)
<ウェアラブルな測定機器とIoT>日常空間の人間の活動をどう測るかというのが重要だろうと我々は思っています。従来は歩数計が、使われておりました。 最近は、小さい輪状のウエラブルセンサーを腕に付けて、歩数や活動状況がインターネットでデータベースに送られるようになり、 既に世界で3200万台が販売され、アメリカでは糖尿病の患者さんをお医者さんが診断する上で必要な機器という状況にまで来ています。
今やいろいろな機器が進歩しウェアラブルで測定でき、心拍や血圧、パルスオキシメーターなど色々あります。Tシャツを着れば心拍が測れるものもできています。 そういう中で、脳の解析は非常に難しい問題ですが、大掛かりなものではなく、日常の脳の活動をリアルタイムでインターネットでデータベースに送れるようにしたい。 という目的にあった「光トポグラフィー」技術で色々な情報解析ができないかということで実験を行ってきました。
脳の三層構造というものがあります。光トポグラフィーで知的活動を見ようというと、大脳皮質を見ればよく、その大脳皮質は一番外側にありますから、 このデバイスを頭に付けるだけで、脳の活性を血液の流量で、測れるだろうと考えました。
これが我々が開発した一番小型の光トポグラフィーの実機になります。内側に赤外の発光体とディテクターがあり、 これを頭部に当ててヘモグロビンの濃度変化を測定します。そこから前頭葉の活性を測定する、 測定した結果をリアルタイムでインターネットで上げるというデバイスを開発いたしました。 これは医療機器ではありませんが、より小型化しハンディなタイプにしました。
エレベーターのボタンのデザインの評価をしました。
皆さん、経験あると思いますが、乗っているときに人がエレベーターに慌てて来たときに、乗せてあげようと思うと「開く」を押そうとしますし、 嫌だなと思うと「閉める」を押すと思いますが、よく間違えます。開けようと思って「閉める」を押してしまったり、ということがあります。 それでボタンのデザインは何がいいのかというのを評価しました。
こちらは普通の矢印のデザインです。一方、こちらは顔があり笑っているのですけれども、こっちはちょっと目を伏し目にして閉めているようなデザインです。 ぞれぞれ評価をしました。実験ではこれらのデザイン絵を画面に出して、「閉めてください」「開けてください」と指示を出しまして、 それによってエラーが何回あったかを調べると、この矢印のデザインだとエラーは300分の22、一方、顔のデザインだとほとんど間違えない、 エラーゼロという結果が出ました。
人というのは顔を認識する能力が非常に優れていると云われています。これは何も考えない、つまり、前頭葉は動かないで判断している。一方、 矢印だけだと、前頭葉が一生懸命動いて考えて、結果間違える。と我々は理解をしています。
これはポスターの例です。日立では、いろいろなポスターを作りますが、デザイン1と2、どっちのポスターが印象深いかという評価をしました。 先ほどと同じように複数の方に光トポグラフィーを付けて見てもらいました。もう1つ、これは視線計測のメガネがありまして、 このポスターのどこにその人が視線を当てているかということを見られるように測定をしていきます。その結果、 それぞれの視点の置き方の割合はそんなに変わらないという結果が出ています。
ただ、光トポグラフィーの結果を見ると、デザイン1のポスターのほうが前頭葉の活性が上がっているので、たぶんこの人は、 こちらに強く印象を受けているだろうという推測ができますし、結果もそうでした。実際、1週間後、どちらをよく覚えているかを、 ヒアリングをしてみましたが、やはりデザイン1のほうをよく覚えていただいていました。たぶんこれは、人間は明るいほうが覚えやすく、 明るいものを見たほうが脳活動が上がる傾向があるので、こういう結果になったのだろうと考えています。
(中略)
こういう形で、我々は脳を測るということを試しにいろいろやっています。今後、運動量やカロリー、睡眠時間など色々なデータをすべてクラウド上に上げて行けば、 これが一番大きなビッグデータになります。日常空間の中での生活を見ながら、そこから解析をして、こういう自己管理、あるいは未病余病、QOLの改善など、 色々なことができるようになるのではないかというのが我々の考えているところです。
まとめると、センサー技術の進歩で、人の日常活動を捉えることができるようになってきています。脳の状態、変化を捉える測定技術としては、 光トポグラフィーはその1つの方法であり、我々の経験において、比較的、的確にとらえるデバイスだろうと思っています。これから日々の運動、あるいは昼食のカロリー、 そういうもののデータを全部吸い上げて、そこからビッグデータ解析をする疾病予防、あるいは未病の状態を見つけていくということで、できるだけ病院に患者さんが、 来ない社会をつくっていきたいと思っています。
以上でございます。ご清聴ありがとうございました。
山舘 ありがとうございます。長年培ってきたデバイス、センサー技術を使ったお話をいただきました。すぐにでも医療の現場で使ってみたい、 例えば非常に重篤ながんが見つかったとか、患者さんにどのようにインフォームドコンセントをしようかというときに、患者さんの今の心理はどうだろうかとか、 話を聞いているときの心理はどう変わるだろうかというのも、気になるところです。こういうのでモニターしながらインフォームドコンセントをしてみたいなとか、 あるいは採血のところに来た患者さんには、採血の前にどれくらい緊張しているんだろうか、不安を持っているんだろうかとか、いろいろなことを今考えながらお聞きしました。